若き日、カメラマンとして取材に行ったパリで小さなフランス人形と出会った。その人形の撮影に没頭することで「物」のもつ魅力に惹かれた私は人形を作り、絵を描き始めた。不慣れに粘土と絵の具に向き合いながら作ったのは、理由もなく道化だった。
フェデリコ・フェリーニの映画「クラウン」を見たのはその頃で、彼の描く「人間の中の道化』に私の道化観が変わった。そしてマルセル・マルソー氏との出会い。言葉の無いマイムという芸術に込められた人々への愛と平和の熱いメッセージ。氏からは表現し伝える事の難しさ、大切さを学ばせて頂いた。
太古の昔から現在まで「人間の存在する所には必ず道化も存在する」と云われている。歴史的に見てもコンメディア・デ・ラルテを中心に道化は文化・芸術に多大な影響を与えてきた。そして私たち一人一人の心の中にも道化的なものが存在する。時代・民族・文化を超え、人々の心をつないできた道化達。そんな彼らにこれからも魅力はつきない。
むらいこうじ